3話 証拠と脅し
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森での間引き作戦を終えた俺はすぐに都市へ帰還した。
部隊のことは重臣のオヤジに任せ、こっちは犯人探しに集中だ。
「指紋の鑑定でもできれば手っ取り早いんだが、ないものは仕方ないか」
ぼやきつつも犯人の唯一の手掛かりである矢を調べていく。
まず先端の矢尻だが、ひし形に鋭く尖っているのが分かる。
部隊の弓が使える兵に聞いたのだが、これは鎧通しといわれるタイプの矢尻らしい。
この世界の人間の力をもってすれば皮鎧や鎖帷子はもちろん、フルプレートの鎧も簡単に貫通できるようだ。
そして、ひし形の鎧通しは先が尖っている分、飛翔速度が速く狙撃能力に優れている。
だが、その兵士はこのタイプの矢は最近ほとんど見ないとも言っていた。
モンスターの主力であるゴブリンやオーガは鎧を身に着けないからだ。
「こっちが部隊の兵士がいつも使っている矢か……確かに違うな」
部隊の弓兵は剣尻といわれる矢尻が三角形になっている物を使う。
ひし形の鎧通しよりも大きな傷を付けられ、引き抜くことが難しいという利点がある。
その代わり、空気抵抗が大きく重いので飛翔速度も遅い。細かな狙撃には向かないタイプだ。
もっとも、モンスターは基本的に大群なので一々細かい狙いをつける必要などないが。
「つまり、これはほぼ対人用の矢ということだよな。滅多に使われない物なら普段から常備しているはずがない。どこからか調達する必要があるはずだ」
俺は矢を持って立ち上がると、軍の備蓄倉庫に向かった。
「あの戦場に犯人がいたなら最高でも一部隊の指揮官に過ぎない。全部隊の指揮官だった伯爵が表立てて問題を起こすとも思えないし、実質的にあの場にいた子爵までの貴族かその関係者だな」
たかが一部隊の指揮官があまり出回らない矢を手に入れるには、軍の倉庫から引っ張り出す必要がある。職人に作らせるという方法もあるが、そちらは足が付きそうなので選択しないだろう。
備蓄倉庫に着いた俺はルーシィの名前を使って責任者を呼び出した。
こういう時、爵位持ちであるルーシィの名の力を実感する。下士官の俺が士官の責任者を呼び出せるんだからな。
「……君がフィンレイ男爵の副官か? こちらも忙しいのだ、できれば手短にお願いしたいな」
「ご心配なく、すぐに済みますよ」
そう言って士官の前に持ってきた矢を取り出す。
すると、彼の表情がいぶかし気なものに変わった。
「鎧通しだな。モンスターが台頭してきてからはあまり使われなくなったはずだが」
「ええ、そうなんです。確かここには備蓄がありましたよね? それが減っていないか確認していただきたいんです」
「分かった、すぐに調べさせよう」
彼が少し奥に戻ると、数分後には不安そうな顔の兵士を一人連れて戻ってきた。
「どうやらこいつが知っているようだが……俺は面倒ごとは御免だ。直接聞いてくれ」
それだけ言うとすぐに奥に戻ってしまった。やはりここで正解だったか。
俺は目の前の気弱そうな兵士に話しかける。
「最近このタイプの矢を持ち出した奴がいるだろう、誰だ?」
「そ、それは……」
まあ犯人も十中八九は貴族だろうからな。二人の貴族の間に挟まれていい気分はしないだろう。
「君が責任を感じる必要はない。命令に従っただけだろう? しかし、こちらは上官を失いかけたんだ。協力してくれ」
さらに追加で彼の心を決めるような言葉を放つ。
「相手が貴族で言いにくいんだろう。心配するな、こっちには決定的な証拠がある。これを持って司令官のところへ行けば真偽は明らかだ」
そう言いながらわずかに血の付いた矢を見せる。
すると、彼は一瞬目を見開いて決意を固めたように口を開き始めた。
「……ちょうど三日前です。下士官殿が一人やってきて『自分はクローネ・カール子爵令嬢の副官だ。至急鎧通しの矢を用意しろ』と言ってきたんです」
「なるほど、クローネ・カール子爵令嬢か。協力ありがとう。この件は公にならないだろうが、身の危険を感じたらフィンレイ男爵の軍務室まで来てくれ。身の安全は保障しよう」
よく話してくれたと彼の肩を叩き、俺はその場を後にする。
これでようやく犯人の証拠が掴めた。もう逃がしはしない。
今までさんざん嫌がらせをしてくれた分、それにルーシィを傷付けた分の代償を払ってもらいに行くとしよう。
そうなると、次に向かうのはカール子爵のところだな。
子供の責任は親にキッチリと取ってもらわないといけない。
それから一時間後、俺は子爵についてある程度下調べをすると、カール子爵の邸宅で子爵本人と正面から向かい合っていた。
最初は面会することすら拒否していたのに令嬢であるクローネの名前を出した途端受け入れるとは、娘のことを相当溺愛しているらしい。
「話があるのなら早くしたまえ。くだらないことだったら叩き出す」
子爵は若干不機嫌なようで、こちらに目線を合わせようともしない。
まあ、これから嫌でも向き合うことになるだろうさ。
「まずは、面会の機会を頂いたことに感謝を。早速ですが、こちらの矢をご覧になったことは?」
目の前に机に布でくるんでいた矢を広げる。
「ふむ、鎧通しか。最近は使わぬが、ごく稀にリビングアーマーなど出てきた時に使用するな」
リビングアーマーとは、鎧だけで動くモンスターだ。最近はクラーズラントの近場に出るモンスターのことを勉強しているのだが、たしかその時に名前を見たと思う。
倒すには内部のコアを壊さなければならないが、装甲が硬いため普通の矢では手も足も出ない。
鎧通しの矢で関節を狙撃し動きを鈍らせた後、ウォーハンマーを持った兵士たちが寄ってたかって叩き潰すそうだ。
「さすがは軍で参謀を務める子爵様。話が早い」
「それで、これとクローネがどう関係があるのだ?」
さてここからだ、子爵はどんな反応をするだろうか。
「実は、三日前にご令嬢が鎧通しを備蓄倉庫から引き出して先の間引き作戦で使用したのですよ。我が主のフィンレイ男爵に向けて」
「……なんだと?」
子爵がこちらを向き、俺のことを睨み付けた。
さすがに軍内部の熾烈な競争を生き残っているだけあって迫力のある眼光だ。
だがまあ、司令官と面会した後だとそれほどでもないがな。
「それは良くないな、本当だとしたら大問題だ。しかし、それが偽りでないと証明できるか?」
「ええ、もちろん。ここ最近鎧通しを備蓄から持ち出した人物を確認しました、お宅のお嬢様の副官です」
「ならば、その副官の私怨か何かではないのか」
「いえ、担当者は副官がお嬢様の名前を出したと言っていましたよ。これだけでも監督責任を問われます。その副官を尋問すれば、誰が首謀者かもはっきりするでしょう」
そう言うと彼の表情も苦いものになってくる。
娘がそういうことをしでかしそうな性格かどうか、よく分かっているようだ。
「今から兵舎を調べれば、残りの矢が出てくるかもしれませんね。ますます言い逃れできなくなります」
交渉の流れはこっちが握っている。このまま畳みかけてやるか。
「モンスターという共通の敵に向き合わねばならない時に仲間割れは良くありませんよね。それも殺害寸前ともなれば、重大な罪でしょう」
俺はこの世界の法律に詳しくないが、明るみに出れば軍法会議必至な事件だということは分かる。
「ちっ、面倒な……貴様たちの要求はなんだ? 司令部に話を持っていっていないのだから、何かあるのだろう?」
「これはこれは、話が早い。こちらとしても事を荒立てるつもりはありません」
もしこちらが軍法会議に発展させようとしたら、子爵は全力でそれを阻止するだろう。
一部隊の指揮官と軍の上層部に近い参謀では使える伝手もかなり違う。
証拠的にはこちらが有利だが、それを覆しかねないのが貴族社会だと思っている。
ならば、最初から穏便に済ませた方が双方の利益になるということだ。
「こちらの要求は、我々の部隊全員に行きわたる良質な装備と防具です。最近は前線に出ることも多くなったので、良い物を揃えないといけなくなったのですよ」
最近のルーシィの部下たちは実戦を何度も経験して練度が上がってきている。
士気も好調で、命じればすぐにモンスターたちを殲滅するだろう。
だが、その装備は初めて見た時からそれほど変わらない。
ボロボロになった装備を修繕しながら、騙し騙し使っているような状況だ。
「男爵家の財政では難しいものがありましてね。子爵様ならば、軍内部の伝手で装備を揃えられるのでは?」
「貴様、簡単に言ってくれるな。百人以上の装備品など、簡単に用意できるわけがないであろうが!」
「ならば、話を軍法会議にまで進めるしかありませんね。お嬢様を無罪にするのはかなり厳しくなりますよ。できたとしても、貴族界での信用には大きな傷がつくでしょうね。いかがしますか?」
その言葉に子爵が歯を噛みしめる。一度汚れた信用は二度と真っ白に戻すことはできない。
そして、数分考え込んでいた彼はようやく顔を上げた。
「……分かった、用意しよう。その代わり証拠は手放してもらう」
「交渉成立ですね。装備が届いたら引き換えに矢をお渡しします。お嬢様には、これを機に他人に迷惑をかけないよう教育し直すことをお勧めしますよ」
こうして、俺は事件に関する沈黙と引き換えに最新式の装備を部隊に充足させることになった。
ルーシィを傷付けられたことに関する怒りは収まっていないが、復讐に駆られて当初の目的を忘れてはいけない。
俺にとっては彼女が昇進し、権力を握ることが重要だ。良質な装備は役に立つことだろう。
それに矢は渡すと言ったが、クローネが独断で鎧通しの矢を引き出した証言は俺の手の中だ。
それに殺害未遂の証拠である矢には劣るが、書類を通さない武器の不正受領も違法であることには変わりない。
今後はそれをチラつかせて、必要な時に資金を提供してもらうとしよう。
弱みを握ったら骨の髄までうま味をしぼり出してやる。
俺は満足しながら子爵家を後にするのだった。
◆ ◆
「チッ、若造が。調子に乗りおって……」
雄心が屋敷を後にするのを部屋から見下ろし、悪態を吐く子爵。
しかし、証拠を握られている以上、下手に動くことはできない。
かといってそのまま放っておいても、永遠に脅され続けるのは目に見えていた。
子爵は信頼できる執事を呼び寄せ、密かに命令を下す。
「ルーク・クラール閣下と連絡を取れ、私が面会を求めていると伝えるのだ」
「かしこまりました、旦那様」
静かに退室する執事から視線を外し、机の上で手を組む子爵。
「証拠を握って調子に乗っているようだが、貴族界は甘くないということを教えてやる」
今回の件で発生した火の粉がどこまで飛んでいくのか、それは雄心にも予想できないことだった。